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大阪高等裁判所 昭和60年(ネ)1419号 判決

控訴人

栗山和雄

今村進

本田亨

本田幸美

被控訴人

京都信用保証協会

右代表者理事

松尾賢一郎

右訴訟代理人弁護士

寺田武彦

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  被控訴人の請求の趣旨訂正により、原判決主文第二項及び第三項を次のとおり更正する。

「二 第一項の判決確定を条件として、原判決添付物件目録記載(一)ないし(三)(ただし、同目録(三)一行目の末尾に「一」を加える。)の土地及び建物につき、被控訴人に対し、控訴人栗山和雄は原判決添付賃借権登記目録記載(一)(ただし、同目録(一)七行目の次に改行の上「存続期間満三年」を加え、同八行目の「転借」を「転貸」に改め、同九行目の「被告」を削る。)の仮登記の、控訴人今村進は同登記目録記載(二)(ただし、同目録(二)四行目の「移転」の次に「付記」を加え、同六行目の「被告」を削る。)の仮登記の各抹消登記手続をせよ。

三  控訴人今村進は、第一項の判決確定を条件として、控訴人本田幸美に対し原判決添付物件目録記載(一)の土地を、控訴人本田亨に対し同(二)及び(三)の建物をそれぞれ明け渡せ。」

三  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人栗山、同今村

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

二  被控訴人

主文同旨の判決を求める。

第二  主張及び証拠関係

次のように付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表五行目の「ついて」の次に「右各所有者との間で」を加え、同四枚目裏二行目の「三日」を「二一日」に改め、同五枚目表六行目の「譲渡し」の次に「て、控訴人今村は本件土地建物の引渡しを受け」を加え、同七行目の「仮登記をした」を「付記仮登記が経由された」に、同裏四行目及び同六枚目表七行目の「競売価格」を「売却価格」に改める。

二  同七枚目裏二行目の「もとづき、」の次に「右物権的請求権を保全するため、」を、同三行目の「代位して、」の次に「同控訴人らの所有権に基づき、」を、同四行目の「失つた」の次に「のにかかわらず本件土地建物を占有する」を、同八枚目表五行目の「受けたが、」の次に「原審及び当審における」をそれぞれ加える。

三  同一一枚目表一〇行目末尾に「一」を加え、同一三枚目表八行目の次に改行の上「存続期間満三年」を加え、同九行目の「転借」を「転貸」に改め、同一〇行目の「被告」を削り、同裏三行目の「移転」の次に「付記」を加え、同五行目の「被告」を削る。

四  証拠関係(当審分)〈省略〉

理由

一当裁判所も被控訴人の本訴請求は正当として全部これを認容すべきものと判断する。その理由は、次のように付加、訂正、削除するほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決八枚目表末行の「原告と」から同裏一行目の「公文書である」まで、同裏六行目の「原告と」から同七行目の「公文書である」までをいずれも「その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められる」に改める。

2  同八枚目裏三、四行目の括弧書きを削り、同末行の「第四号証、」の次に「第五号証の一、」を加え、同九枚目表四行目の「当裁判所に顕著である」を「前掲甲第一ないし第三号証、方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一九、二〇号証によりこれを認めることができる」に改め、同五行目の「原告と」から六行目の「争いがなく、」までを削り、同七行目の「証言」の次に「及び弁論の全趣旨」を加える。

3  同九枚目表一〇行目の「第一八号証」から同裏一行目の「争いがない)」までを「第一ないし第三号証、第一九、二〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一八号証」に、同裏四行目の「競売価格」を「売却価格」に改め、同一〇行目冒頭から同一〇枚目表四行目末尾までを削る。

4  同一〇枚目表五行目の「以上の諸点を勘案すると」を「そうだとすれば」に改め、同七、八行目の「これにより」から「べきである。」までを次のように訂正する。

「右解除を命ずる判決が確定した場合には控訴人栗山は前記仮登記、同今村は前記付記仮登記の各抹消登記義務があり、抵当権者である被控訴人は物上請求権によりその抹消登記を請求しうるものと解されるところ、さきに認定した事実関係及び弁論の全趣旨から右解除の判決が確定しても右控訴人らが直ちに右各抹消登記に応ずるとは認め難いから、被控訴人はあらかじめ右請求をなす必要があるものと認めることができる。更に、右解除の判決が確定した場合には控訴人今村は本件土地建物の占有権原を失うに至るから、同控訴人は所有者である控訴人本田幸美、同本田亨に対しそれぞれ本件土地建物を明け渡すべき義務があるところ、さきに認定した事実関係及び弁論の全趣旨から右判決が確定しても同控訴人が直ちに右明渡しに応ずるとは認め難いから、被控訴人は抵当権に基づく物権的請求権を保全するため、控訴人本田幸美、同本田亨に代位して同控訴人らの所有権に基づき控訴人今村に対し、あらかじめ本件土地建物の明渡しを求める必要があるものと認めることができる(抵当権者には目的物の占有関係について支配干渉する権能がない以上抵当権者がその所有者の有する目的物返還請求権を代位行使することはできない、とする考え方もありえようが、解除判決が確定しても短期賃借人が占有を続けるためになお目的物の価格が低額に評価され、抵当権者の損害が充分には回復されず(前記事実関係からすれば本件はその場合に該当するものと認められる。)短期賃借人に明渡しを求めない抵当権設定者(目的物所有者)に対し抵当権に基づく物上請求権たる妨害除去請求権を有すると解される抵当権者が、差押後においても設定者の目的物返還請求権を代位行使できず拱手傍観するほかないとするのでは、権利保護に欠け、担保権実行手続の適正を期する所以ではないし、確定判決に服して任意に退去する者との比較において公平でない。民法三九五条ただし書が解除を命じうる旨規定しているのみであるからといつて、同条が解除確定後の賃借人の不法占拠を保護する結果を容認しているものと解することはできない。)。

二よつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、なお、当審における被控訴人の請求の趣旨訂正により、原判決主文第二、三項を主文第二項のように更正し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川 恭 裁判官堀口武彦 裁判官安倍嘉人)

《参考・原判決》

〔主   文〕

一 被告本田亨及び被告本田幸美と被告今村進との間に別紙物件目録記載(一)ないし(三)の土地及び建物についてそれぞれなされた別紙賃貸借目録記載の各賃貸借契約を解除する。

二 被告栗山和雄及び被告今村進は、第一項の判決確定を条件として、別紙物件目録記載(一)ないし(三)の土地及び建物についてそれぞれなされた別紙賃借権登記目録記載(一)及び(二)の各登記の各抹消登記手続をせよ。

三 被告今村進は被告本田亨及び被告本田幸美に対し、第一項の判決確定を条件として、別紙物件目録記載(一)ないし(三)の土地及び建物を明渡せ。

四 訴訟費用は被告らの負担とする。

〔事   実〕

第一 当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

主文と同旨

二 請求の趣旨に対する答弁

(被告栗山和雄、同今村進)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二 当事者の主張

一 請求原因

1 原告の根抵当権

原告は、昭和五四年一〇月二四日、被告本田亨との間の信用保証委託取引から生じる求償債権を担保するため、被告本田幸美所有であつた別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という)について、また、同本田亨所有であつた同物件目録(二)及び(三)の各建物(以下「本件各建物」といい、本件土地と一括して「本件土地建物」という)について左記内容の根抵当権設定契約を締結し、同日その旨の根抵当権設定登記を経由した。

受 付 番 号 第二三〇六六号

原   因 昭和五四年一〇月二四日設定

極 度 額 金一八〇〇万円

債権の範囲 保証委託取引

債 務 者 被告本田亨

根抵当権者 原 告

なお、原告は、昭和五六年四月二二日、被告本田幸美及び同本田亨との間で、前記根抵当権変更契約を締結し、極度額を五二八〇万円に変更し、同年同月二三日その旨の根抵当権変更登記を経由した。

2 原告の被担保債権

(一) 原告は、被告本田亨の委託により、別紙保証委託一覧表記載のとおり、同被告が金融機関から金員を借り受けるについて、右被告のために信用保証協会法に基づく保証を行う旨の四件の信用保証委託契約を締結し、その内の三件について被告本田亨の原告に対する求償債務につき被告本田幸美が連帯保証した。

(二) 被告本田亨は、前記原告の保証に基づき、別紙保証委託一覧表記載のとおり、各金融機関から金員を借り受けたが、約定どおりの返済をしなかつたため、原告は、同一覧表記載のとおり、各金融機関に対して合計四一六七万五四二円を代位弁済し、同金額の求償債権を有している。

3 本件土地建物に対する競売開始決定

昭和五九年二月頃本件土地建物について第一ないし第三順位根抵当権者である訴外京都中央信用金庫から京都地方裁判所に対し根抵当権実行による競売申立がなされ、同年同月三日競売開始決定(京都地方裁判所昭和五九年(ケ)第五三号)があり、また、同年一一月頃本件土地建物について第四順位根抵当権者である原告が京都地方裁判所に対し根抵当権実行による競売申立をなし、同年同月二〇日競売開始決定(京都地方裁判所昭和五九年(ケ)第五五〇号)がなされ、目下競売手続が進行中である。

4 被告今村進の賃借権

(一) 本件土地の所有者は被告本田幸美であり、本件各建物の所有者は同本田亨であるところ、右被告両名は、昭和五八年九月二〇日、被告栗山和雄に対し、本件土地建物を期間三年間、賃料一か月二万八一六四円、支払期限毎月末日払、譲渡、転貸可能との約定で賃貸し(以下「本件各賃貸借」という)、同五八年一二月三日別紙賃借権登記目録記載(一)の各賃借権設定仮登記をした。

(二) 被告栗山和雄は、昭和五八年一二月一三日、前記賃借権を被告今村進に譲渡し、同年同月一四日別紙登記目録記載(二)の各賃借権移転仮登記をした。

5 前記賃貸借による原告への損害の発生

前項記載の各賃貸借は、民法第三九五条所定の期間内のものであるが、次のような事情で根抵当権者である原告に損害を及ぼすものである。

(一) 本件土地建物に対する競売手続は、一括競売が適当とされ、その鑑定評価は、更地空家価格として六〇二五万円、短期賃貸借のある場合の価格として四八二〇万円の評価をしたが、最低競売価格は、前記被告今村進の短期賃貸借を認めて、短期賃貸借のある場合の鑑定評価額金四八二〇万円と定められた。

(二) 本件土地建物のすべてについて、原告の根抵当権に先立つ第一ないし第三順位根抵当権者として訴外京都中央信用金庫のために債権額第一順位一三〇〇万円、第二順位七〇〇万円及び第三順位一〇〇〇万円の各根抵当権の設定がなされその旨の各登記があるところ、同訴外金庫の右各根抵当権によつて担保されるべき債権額は、本訴状提出直後の昭和六〇年三月末日時点において元金額合計二〇九八万円、損害金合計五八一万五三六円の総額二六七九万五三六円であり、同金額の原告に優先する債権が存する。

(三) 以上の事実に基づいて、仮に本件土地建物に対する競売において、前記最低競売価額により競落されたとすると、原告が右競売により回収し得る債権額は二一四〇万九四六四円となり、また、仮に前記更地空家価格により競落されたとすると、原告が受ける配当額は三三四五万九四六四円となる。従つて、短期賃貸借のある価格によつて競落された場合、更地空家価格として競売された場合と比べ、原告の受ける配当額は、少くとも一二〇五万円以上減少することは明らかであり、原告は同額の損害を蒙ることとなる。

(四) 原告の前記損害の発生は、本件土地建物について被告今村進に短期賃借権が設定され、現にこれに基づいて占有しているためであることは明らかであり、右各短期賃貸借がなければ、当然最低競売価額は前記空家価額で定められ、短期賃貸借のある場合としての競売価額より高額な競売価額で競落されることは明らかである。しかも、賃借人である被告今村進の賃貸借の条件は、賃料額が著しく低く、賃貸人にとつて著しく不利であるとともに、右賃貸借の存在を認めると本件土地建物の競売価額がさらに低下することも考えられ、右各賃貸借の存在が原告の根抵当権を害していることは明白である。

6 よつて、原告は、第一に民法第三九五条但書により、被告本田亨及び同本田幸美と同今村進との間の本件土地建物についてなされた別紙賃貸借目録記載の賃貸借契約の解除を、第二に抵当権に基づく物権的請求権により、被告栗山和雄及び同今村進に対し、被告本田亨及び同本田幸美と同今村進に対する前記賃貸借契約の解除の判決の確定を条件として、本件土地建物につき、別紙賃借権登記目録記載(一)及び(二)の各登記の各抹消登記手続を、第三に民法第四二三条にもとづき、前記賃貸借契約の解除の判決の確定を条件として、被告本田亨及び同本田幸美に代位して、占有権限を失つた被告今村進が被告本田亨及び同本田幸美に対して、本件土地建物を明渡すことをそれぞれ求める。

二 請求原因に対する認否

(被告栗山、同今村)

1 請求原因1の事実のうち、被告本田幸美が本件土地を、同本田亨が本件各建物をそれぞれ所有していたこと及び本件土地建物について原告主張の各根抵当権設定登記が存することは認め、その余は不知。

2 同2の事実は不知。

3 同4の事実は認める。

4 同5の(二)ないし(四)の各事実は不知。

第三 被告本田亨及び同本田幸美は、いずれも公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しない。

第四 証拠〈省略〉

〔理   由〕

一 請求原因1の事実は、原告と被告栗山及び同今村との間では成立に争いがなく、公文書であるから〈証拠〉によりこれを認めることができ(原告と被告栗山及び同今村との間では本件土地建物の所有関係及び各根抵当権設定登記の存在については争いがない)、他にこの認定に反する証拠はない。

二 同2の(一)及び(二)の各事実は、原告と被告栗山及び同今村との間では成立に争いがなく、〈証拠〉を総合してこれを認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

三 同3の事実は当裁判所に顕著である。

四 同4の(一)及び(二)の各事実は、原告と被告栗山及び同今村との間では争いがなく、〈証拠〉によりこれを認めることができ、他にこの認定に反する証拠はない。

五 同5の(一)及び(二)の各事実は、〈証拠〉によりこれを認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると、本件土地建物が、仮に最低競売価格四八二〇万円により競落されたとすると、原告が右競売により回収しうる債権額は二一四〇万九四六四円となり、更地空家価格六〇二五万円により競落された場合と比較すると、原告の受ける配当額は一二〇五万円の減少となることは計数上明らかである。

さらに、前記認定事実によると、本件各賃貸借が賃貸人にとつて著しく不利益な条件がつけられており、このような事情下においては、競落によつて本件土地建物の所有権を取得しようとする者は、競買申出にはより慎重となることは経験則上明らかであり、その結果として競売価格はより低くなることも経験則上予測しうることである。

以上の諸点を勘案すると、本件各賃貸借は根抵当権者である原告に損害を及ぼすものというべきであるから、民法第三九五条但書により右契約の解除を命ずるのが相当であり、また、これにより原告のその余の各請求も理由があるというべきである。

六 よつて、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

物件目録

(一) 京都市中京区壬生松原町二八番の一

一 宅 地 二五七・八五平方メートル

(二) 同所二八番地一

家屋番号 二八番一

一 木造鉄筋コンクリート造瓦、陸屋根交葺二階建 居宅・店舗・工場

床面積

一階 一九五・三四平方メートル

二階  八三・三四平方メートル

(三) 同所同番地

家屋番号 二八番一の一

一 木造瓦葺平家建 居宅

床面積 二六・七七平方メートル

賃貸借目録

賃貸人 被告本田幸美(別紙物件目録記載(一)の土地につき)及び同本田亨(同目録記載(二)及び(三)の各建物につき)

賃借人 被告 今村 進

賃借物件 別紙物件目録記載(一)ないし(三)

期  間 昭和五八年九月二〇日から三年間

賃  料 一か月金二万八一六四円

支払日 毎月末日

特  約 譲渡・転貸ができる

賃借権登記目録

(一) 京都地方法務局下京出張所 昭和五八年一二月三日

受付第二一一四九号(別紙物件目録記載(一)の土地につき)・第二一一五〇号(別紙物件目録記載(二)及び(三)の各建物につき)各賃借権設定仮登記

原 因 昭和五八年九月二〇日設定

借 賃 一月一m2金五〇円

支払期 毎月末日

特 約 譲渡・転借を許す

権利者 被告 栗山和雄

(二) 京都地方法務局下京出張所 昭和五八年一二月一四日

受付第二一八二三号(別紙物件目録記載(一)の土地につき)・第二一八二四号(別紙物件目録記載(二)及び(三)の各建物につき)各仮登記賃借権移転仮登記

原 因 同年同月一三日譲渡

権利者 被告 今村 進

保証委託一覧表〈省略〉

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